(つづき)

前編では、今回の騒動に関してネット上で攻撃を受けている人物や団体、そして『ハラスメント防止ガイドライン』とは何なのかについて解説を行いました。

>>>前編記事はこちら

後編では「一橋大学大学院言語社会研究科」について、そして平成28年に成立したヘイトスピーチ対策法(解消法)について解説していきます。

 

一橋大学大学院言語社会研究科って、どんなところ?

言語社会研究科は、一橋大学大学院の研究科の一つで、声明文の中では『言語社会研究科は、世界のさまざまな地域の言語と文化の教育研究を行う場』と説明されています。

(参考)一橋大学大学院言語社会研究科ホームページ

そして、言語社会研究科が設置されている大学は、国内では一橋大学のみです。(2007年までは大阪外国語大学の大学院にも設置されていましたが、大阪大学との統合により現在は大阪大学大学院言語文化研究科言語社会専攻に改組されました。)

つまり、言語社会研究科が独立した研究科として存在しているのは、日本では一橋大学だけということになります。(2017年6月現在)

そんな言語社会研究科ではどんな研究が行われているのかというと、Wikipediaではこのように説明されています。

人文科学的な分野に関して、特に言語と社会の関連にアプローチの重点を起きながら、実際には総合文化学のようなものを目指しているのが同研究科である。事実、同研究科の内部構成は、言語学哲学などとともに、地域研究として、欧米研究アジア研究日本研究など、既存の一橋大学大学院の各研究科と有機的に連携して幅広い研究活動を行っている。極めて強い学際的性格を有しているのが言語社会研究科の特徴である。

(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%80%E8%AA%9E%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%A7%91

要するに、哲学、言語学(他にも歴史学、倫理学、文学、音楽学など)を、様々な地域を研究対象として行っているのが言語社会研究科なのです。

そして研究対象となっている数々の地域の中でも、言語社会研究科が従来から活発に交流を行ってきた地域が、東アジア諸地域なのです。

加えて、一橋大学は全学生に対する留学生の割合が非常に高いです。一橋大生であれば肌感覚でわかると思いますが、ゼミでも第二外国語のクラスでも、また学生食堂でも留学生と交流する機会は非常に多いです。

話は逸れますが、ミスコンに留学生が出場することも珍しくなく、2012年はルーマニア出身のヨヴ・エレナさん2016年は、ベトナム出身のグェン・フォー・ニーさんが出場しています。

DSC_2449(1)

2012年度ファイナリスト ヨヴ・エレナさん(出典:http://b.wondernotes.jp/misshitotsubashi2012-iovu/

「一橋 ミスコン グェン」の画像検索結果

2016年度ファイナリスト グェン・フォー・ニーさん(右から二番目)(出典:https://twitter.com/miss_hit16

 

また、今回の騒動を独自取材したという清義明さんのブログでは、一橋大学の留学生に関してこのように分析しています。

実は一橋大学は日本有数の外国人留学生の受け入れ大学なのである。

その数、2015年度のデータでは732人。全生徒のうちの11%が外国人、大学院にいたっては24%が外国人となる。

(中略)

クラスでも学食でもキャンパス内を歩けば、行きかう人の10人に1人は外国人で、もちろん友人や同僚やクラスの仲間にも外国人が多数いるグローバルな環境の一橋大学の学生や教員が、かつて、全くなんの証拠もないのに、とある犯罪の犯人を「在日外国人ではないか」と決めつけた差別発言の当事者である百田尚樹に嫌悪感を示すのは至って当たり前のことではないのだろうか。

さらにこれが院生となるとさらに国際化が進み、1/4は外国人となるのだから、院生がこの運動の中心になっているところもわかる話である。

(出典:http://masterlow.net/?p=2989

 

さて、ここまでのお話をまとめると、

  • 大学院言語社会研究科は東アジア諸国との交流が深い
  • 一橋大学は留学生の割合が高い

ということです。

当然、東アジアとの交流が深い言語社会研究科には中国・韓国の留学生が多いです。また、言語社会研究科に所属する日本人の院生・教員は、東アジアに対して理解・関心の深い人が集まっていると言えます。

故に言語社会研究科が今回のような声明文を発表し、ネット上でヘイトスピーチを受けている院生や学生を保護する立場を表明したことは、当研究科の研究対象や人員構成を考慮すれば何らおかしいことではないのです。

 

ヘイトスピーチ対策法(解消法)とは?

ヘイトスピーチ対策法とは平成28年6月3日に公布された、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」の略称です。

weblio辞書によれば、次のように説明されています。

本邦外出身者に対する不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)の解消に向けた取組を推進するため、基本理念および国と地方公共団体の責務を定めるとともに、国や地方公共団体が相談体制の整備・教育の充実・啓発活動などを行うことについて定める日本法律

(出典:http://www.weblio.jp/content/%E3%83%98%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%81%E5%AF%BE%E7%AD%96%E6%B3%95

注目すべきは、このヘイトスピーチ対策法は具体的な罰則を定めているわけではないということです。

簡単にお話しますと、法律には①具体的な罰則が条文で定められているものと、②そうでないものがあります。

前者は刑法や民法など、いわゆる「法律」のイメージの強いものですが、後者は未成年飲酒・喫煙(親や店は罪に問われるが、本人はお咎めなし)、他にはNHKの契約などもあります。

ヘイトスピーチ対策法も同様に、ヘイトスピーチに当たるような発言・表現を行ったとしても直ちに罰せられることはありません。ヘイトスピーチを見聞きした人が訴訟を起こし、裁判所が違法行為と認定した時に初めて「民事上の罰則」が被告に与えられます。

そういうわけで、ヘイトスピーチをしたからといってすぐに罰せられるわけではありません。ですので、本法律施行後に差別的・暴力的発言が目に見えて減ったとか、分かりやすい変化はそれほど起きていないというのが現状です。

しかし本法律施行後、神奈川県川崎市がヘイトスピーチを行うための公園使用を不許可処分としたり、今回のような騒動が起こったりと、ニュースでヘイトスピーチという言葉がよく取り上げられたりと、社会全体としての意識の変化は着実に生じています

罰則規程のないヘイトスピーチ対策法ですが、今後行政や司法の場においてヘイトスピーチに関する規制が厳しくなることは間違いないでしょう

話を今回の声明文に戻すと、『わたしたちは法令の精神を尊重し、これを遵守します。』と言語社会研究科は表明しており、ここでもヘイトスピーチ対策法の効果の存在を感じることができます。

言い換えればヘイトスピーチ対策法は、日本国憲法・世界人権宣言と並び、この声明文の強力な後ろ盾となっているわけです。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回、一橋大学大学院言語社会研究科が発表した『一橋大学大学院言語社会研究科 人権尊重についての声明』は、百田尚樹講演会騒動後も差別的・暴力的発言を受けている一橋大学の学生を守るために発表されたものでした。

差別的・暴力的発言を受けている学生とは、ARICのメンバーや「一橋大学有志の会」のメンバーです。そして彼らを守る根拠としては、日本国憲法や世界人権宣言、ハラスメント防止ガイド、ヘイトスピーチ対策法など様々なものがあります。

またこの声明文が発表された背景として、言語社会研究科が東アジア諸地域と交流が深いことと、留学生の割合が非常に多いという一橋大学の特徴があったのです。

しかしこの声明文が発表された今も、依然として彼ら反対派は(特にネット上で)一部の人間から厳しい言葉を浴びせられています。

Twitterを見ると、彼らを論理的に諭すような意見もある一方で、心無い差別的な意見(中にはただの悪口でしかないようなものも)も少なくありません。

この声明文が一橋大学から発表されている以上、もはや私たちにとってこの騒動は「他人事」では済まされないのではないでしょうか?

「大学」という自由な学問・研究活動の場にいる私たちは、この騒動に関して今一度よく考える必要があるのかもしれません。