6/10(土),11(日)に行われた一橋大学の学園祭「KODAIRA祭」において、百田尚樹氏の講演会が中止に追い込まれたことが話題となりました。

今回の件に関して、ネット上では一橋大学や百田氏、反対運動を行った団体に対して様々な意見が飛び交いました。普段「一橋って知名度低いよな…」と嘆く一橋大生にとっては、何とも皮肉な形で世間から注目を集める結果となったわけです。

さて、今回は現役一橋大生である私ひろ太が、「どうして百田尚樹講演会は中止に追い込まれたのか」、一橋大学の内情を解説しつつ考察していこうと思います。

百田尚樹が持つ、二つの社会的評価

百田尚樹氏はご存知の通り、放送作家作家という二つの肩書を持っています。特に作家としてはベストセラー作品を数多く出版しており、映画化された書籍も多いです。また政治問題に関する対談形式の書籍も出しており、一般的には「文化人」として認識されています。

しかし一方で百田氏は、ツイッターや講演会などで時折「過激な発言」を見せる一面も持ち合わせています

例えば、偏向報道を行う沖縄の地方紙に対して「沖縄の2紙はつぶさないといけない」と発言したり、軍隊を持たない南太平洋の島国バヌアツやナウルを「貧乏長屋」と揶揄したことがありました。

ここでは百田氏の政治的思想に関して語ることはしませんが、いずれにせよこれらの発言が「過激」「物議を醸すもの」だということは否定できません。(百田氏は上の二つの発言に関しては認めているものの、後にTwitterで「冗談だった」と語っています。)

確かに彼の言い分の通り、百田氏の発言がマスコミによって切り取られ、本人の真意とは別に一人歩きしている可能性も大いにあります。とはいえこれらの発言に、一部の人々を反応させるには十分な過激さがあることは贔屓目に見ても認めざるを得ないでしょう。

そういった彼の過激な発言に対する一部の人たちの反応や、SNSによる拡散、メディアによる報道が集積された結果として、「ヘイトスピーカー」「差別主義者」という負の評価が百田氏に定着してしまったと思われます。

こうして百田尚樹という人間は、「ベストセラー作家」「ヘイトスピーカー・差別主義者」という二つの社会的評価を持つに至ったというわけです。

学生の認識の甘さ

さて、そんな二つの社会的評価を持つ百田氏ですが、

今回の一橋大学学園祭「KODAIRA祭」の講演会では、百田氏の「良い一面」つまり「大ベストセラー作家・売れっ子放送作家:百田尚樹」として招待されたのでした。

その経緯に関しては、「一橋新聞WEB」という一橋大学の学生が運営するWEBメディアで詳しく伝えられています。そこでは今回の件についてKODAIRA祭実行委員会に対するインタビューが掲載されています。

――今回、講演者として百田氏が適当だと判断した根拠を教えてください。

集客を見込めるということが最大の理由です。KODA祭は、「新歓期の集大成」という位置づけがあり、大学の内輪のイベントという雰囲気が出てしまいます。外部からの来場者でも楽しめる企画として、毎年講演会を実施しています。メディア企業を志望する学生の多い本学において、人気番組の放送作家で、かつ作家としても広く世に知られた人物でもあるため、話題性は十分であると考えました。

――百田氏は民族差別的な発言を繰り返すなどネガティブな話題性もあったように思います。そうした点に対し委員内で懸念はあったのでしょうか?

実際、一部の委員からは「アジアからの留学生も多い本学に、そうした国々に対し差別的な発言が目立つ百田氏を呼ぶのは不適切だ。祭りのイメージを損ねてしまうのではないか」といった声も上がっていました。ですが今回の講演では、百田氏の政治的な思想、信条については触れず、「現代社会におけるマスコミのありかた」というテーマに絞った講演であれば問題はないと判断しました。正直ここまで大きな反響が起きるとは予想していませんでしたが、百田氏という人選、企画趣旨の設定は適切だと考えています。

――本講演の開催については強い反発も見られます。当日の混乱を防ぐ取り組み等は検討しているのでしょうか?

大学側からは、「本講演においては混乱が生じる可能性があるため、会場周辺の警備を強化してほしい」との要望があり、外部に一部業務を委託しようと考えています。また講演内容については台本が用意されておりますが、問題のある発言があったと委員が判断した際には、その場で何かしらの措置を取って対応したいと考えています。

今回の取材を通じ、気になる点があった。それは、本件について論じる際、往々にして百田氏の政治的立場と、レイシスト的言動が混同されているということだ。政策について左右いずれかの立場を取ることと、特定民族を誹謗中傷する行為は「言論の自由」という言葉で一括りにして語られるべきではない。後者については明確に否定されなければならないという前提を共有したうえで、慎重な議論を期待したい。

(出典:http://hit-press.org/projects/1098

百田氏がKODAIRA祭で講演会を行うことは、今年の1月にはKODAIRA祭のTwitterアカウントで公表されていました。

※KODAIRA祭当日は百田尚樹氏の他に、お笑いコンビ「ラバーガール」、戦場カメラマン渡部陽一氏の講演も企画されていた。

(引用:https://twitter.com/KODAIRAfes/status/844162207025848320

私のような普通の一橋大生にとっては、「え、百田尚樹来るの!?行きてぇ!!」というのがリアルな感想でした。おそらくほとんどの学生も同様に百田氏の講演会に期待をしていたと思います。有名人・大ベストセラー作家の話を自分の大学で生で聞けるのですから、またとないチャンスです。

そしてKODAIRA祭実行委員会としても、百田氏の講演会を企画した最大の意図は「集客が見込めるから」でした。実際私も大いに興味をそそられましたし、百田氏が講演会を行うという話題性は大学内外に大きなインパクトを与えたに違いありません。

 

しかしながら、私たち一橋大生は大事なことを見落としていました。

 

それは先程触れた百田氏の「負の評価」、つまり「ヘイトスピーカー・差別主義者」という社会的評価です。

百田氏に批判的な人たちからすれば、百田氏が大学で大々的に講演することはどうしても避けたいでしょう。いつぞやのような過激な発言が飛び出し、学生に大きな影響を与える可能性だってあります。

事実百田氏がKODAIRA祭で講演を行うことに関しては、ネット上で大きな物議を醸しました。これは私たち学生や、KODAIRA祭実行委員会としても全く想定外のことであったはずです。

一橋新聞のインタビューによれば、KODAIRA祭実行委員会は事前に百田氏の負の側面も考慮し、彼の政治的思想には一切触れず台本も用意して「マスコミ」というテーマに絞って講演会を行うという対応策を考えたようですが、結局は「百田尚樹が一橋に来る」こと自体が彼に批判的な人々を強く刺激してしまいました

※ただ個人的には、「現代社会におけるマスコミの在り方」というテーマも一部の人からすれば十分刺激的な気もします。本当に百田氏の負の側面を考慮するなら、彼の放送作家としての代表作「探偵ナイトスクープ」や、作家としての代表作に関する講演にすべきだったでしょう。

また本件に関して大学側は、「学生の意思を尊重する」という立場を終始取っていました。大学の自治に基づき、自由な学問の場としていかなる表現・言論を受け入れるというスタンスですが、この大学側の姿勢は間違っていないと思います。大学が特定の立場の主張を制限したら、それこそ大きな問題です。

故に「大学側には一切の非はない」と考えて良いでしょう。

したがって今回の件に関しては、私のような普通の一橋大生KODAIRA祭実行委員会含め、大多数の学生が「百田氏の二つの社会的評価」に関してあまりにも無関心だった(百田氏の「良い評価」ばかりにフォーカスし、彼の「負の評価」を十分に考慮していなかった)、百田氏を招待することのリスクを十分に考慮していなかったというのが一番の問題と考えるのが妥当でしょう。

 

(後編に続く)

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